起業のスタートラインに立つ条件とは?

■学生も起業する時代

ここ数年、若くして起業しようと考える人が増えてきているように思う。”学生起業”も一つの選択肢として捉えられる時代になりつつある。

起業しようと考える人がまずぶつかるのは、
・「起業したいけど、何を準備したらいいの?」
・「いつ起業すべき?」
・「一度会社に入った方が良い?」
・「それともビジネススクールに行ってからの方が良い?」

などといった問いだろうか。私自身、ぼんやりと起業を考え始めたのは20歳の大学生の時だったが、まさにそんな問いかけに頭を悩ませていた。

今回は、現時点で持ちうる知識と経験から考察してみたいと思う。

当記事は、「まだ一度も起業を経験したことがない」、「特に知名度もなく、ごく一般の者が、初めて起業に挑戦したい」という人向けに書いている。

事業で失敗を何度か経験した者として、得られた知見はあまりに大きかったので何か一つでも参考になれば幸いである。

■スタートアップの成功確率は0.1%よりも低い

「成功させるために、起業のスタートラインに立つための条件は何か?」

結論から言おう。

「それは、”お金”と”覚悟”の二つだけ。他は、あればあるだけ役に立つが必要条件ではない」

それでは説明していく。

筆者の場合、起業するまでのフローをざっくりと抽出すると、
「学生→経営を独学で勉強→ビジネススクール(1年)→仲間と起業」
このような形になる。

まず、スタートアップの心構えとして抑えておきたいのは、起業に成功するのはそんなに簡単ではない、ということに尽きる。スケールする(事業を大きくする)ことを狙うスタートアップは99.9%の確率で失敗する。成功するのは1000社に1社くらいの確率だ。だからと言って悲観的になったり、逃げ腰になったりするのは全くの間違いだが、それだけチャレンジングな道であることは認識しておいた方が良い。

このことは、様々な本に書いてあり、筆者も独学で勉強していた時に何度も見聞きしていた。
しかし、”どれだけ難しいか”は、失敗して、痛みを抱えて、初めてわかった。

筆者は21歳以降、365日生活のほとんどの時間を勉強に費やしてきた。なので、 量だけで言えばそこそこ勉強してから起業に挑戦した方だとは思う。でも、無知の若造以外の何者でもなかった、と言わざるを得ない。それは、今でもそうなのだが…。

■スタートアップは、生き物である。

起業は、アート、いわば芸術に近いものだと思う。事業というのは、生き物みたいなもので、有機的である。それゆえに、とてつもなく複雑である。

確かに、「1+1=2」と言った絶対的な法則が見いだせる、サイエンス的な世界も多分にあるのだが、それ以上に、曖昧複雑としている。流動的、捉えどころがない、ムービングな要素が多いのである。だから、成功するためには、ひとえに、「これと、これと、これが必要」とレシピのように絶対的な方程式で言い表すのは、ほぼ不可能に近いと考えている。

事業の成功に影響する変数は、無限のようにある。
起業の成功者は、その成功要因を(自身の承認欲求や、マーケティングやブランディングのために)意気揚々と語るのが常だが、外部環境は刻一刻と変わっていく。そもそも創業者もメンバーも違えば、同じような方法でやったところで、同じ結果が出るはずがない。

あらゆる条件が異なっているのである。事業は、生態系のようにあらゆる要素が絡み合ってる。その全ての要因がうまく噛み合った時、事業は大きな形をなしていくのだろう。

その作業は、サイエンスというよりは、アートを作っていく仕事に近いと思う。
自分の価値観に沿って「これだ!」と思える世界を想い描き、捉えどころがない、正解の見えない状況の中でも、ひたすら試行錯誤を繰り返して”完璧”なものを作り上げていく。

■第1条件:「お金」と向き合うことがまず必要

起業する前にどんな準備をすべき?という問いに戻ろう。

第一条件は、お金についてである。
ここで言う「お金」をさらに分解すると、「資本金」と「生活費」の二つのことを指している。
まず何よりも、お金と向き合うことは避けては通れない。いまの世の中では、お金がなければ生きていけない。お金がなければ、資本家になることもできない。これは資本主義の大前提であり、今も昔も変わらない。

事業を行う上で、カネは本当に大きな力を持つ。数あるリソースの中でも、最重要のものである。資本金は多いに越したことはない。現金は、あればあるだけ良い。

「資本金をどうやって集めるのか」を考え、クリアーすることがマストの条件になる。

親族から集めるのか、融資を受けるのか、自分で貯めるのか、VC(ベンチャーキャピタル)から調達するのか、クラウドファンディングで集めるのか。残念ながら筆者は、資本政策に関してはそれほど詳しくないので、お金に関する言及はこの程度にとどめたい。幸いなことに、今の時代は資本を集める手段も多様化しているので集めるハードルはグッと下がってきているように思う。

また、「生活費をどうやってやりくりするのか」も、クリアーすべきマストの条件である。

当然だが、人も、企業も、死んでしまったらおしまいである。つまり、起業で最も重要なことは「死なない」ということになる。これは、本当に重要である。

上述の通り、起業の成功確率はとてつもなく低い。勉強や経験である程度上げていくことはできるが、たとえ有名な成功者であっても、100%には到底近づけないだろう。そうなると、いじるべき変数となるのは「挑戦の回数」しかない。だから、起業家が一番考えるべきは「死なない」こと。死なない限りは、何度も挑戦できる。挑戦できる限り、成功の可能性は常にあるわけである。

つい遠いゴールばかりを見つめて足元を見られない経営者は多い。筆者も、一番勘違いしていたのはこの点である。自分で好きなことをする前には、会社も自分も生きて行くことを考えるのが必須なのである。

■第2条件:「覚悟」を育て始めることがまず必要

意外と思われる方もいるかもしれない。「なぜ”覚悟”なのか?」と。

それは、「覚悟」が全ての要素の源になるからである。これは、全くもって精神論で言っているわけではない。

「覚悟」とは、いわば、「主電源」みたいなものである。この主電源の出力が弱いと、どこかでダメになることが多い。

例えば、事業計画を綿密に作り込み、ビジネスコンテストで優勝し、偉い人たちに認められた事業であっても、実際にそれが成功する保証はどこにもない。むしろ、事業計画通りに進むものなんてこの世に一つもない。必ず想定していなかった問題が発生する。先ほど述べたとおり、スタートアップは生き物であり、世界は複雑で流動的であるからである。

壁にぶつかったら、その都度「問題を分析し、解決法を考え、実行していく」というプロセスを経ることになるのだが、その時に「徹底的にこだわってやり切れるかどうか」が成否に関わってくる。

例えば自信を持って育てたある食品を、命に代えても何としても売りたいと思うならば、全国の料亭を一軒一軒回る、突き返されても諦めない、などといったような泥臭さも時に必要だし、
少ないリソースしかないベンチャーが数ある競合の中でいかに勝ち抜くか、効果的な戦略をつくる賢さも必要である。

それらを生み出す元のタネは、人並みはずれた「こだわり」や「ハードワーク」であったりする。つまり結局のところは、「覚悟」の問題であり、それが全てのエンジンになるのだ。

だから「覚悟」の如何は、人事でも、営業でも、経営戦略でも、資本政策でも、もちろん商品にも、全てに影響してくる。

逆に、もしこの主電源となる「覚悟」が中途半端なものならば、(意識するとしないとに関わらず)どこかで必ず”やり切れない”ことが出てくる。それは必ず積み重なって「失敗」という形で表出してくるものなのだ。

覚悟さえあれば、必要なことはどれほど難題であっても立ち向かえる。

だから覚悟を育てることが、まず必要なのである。「私はこれをやる」という揺るぎない覚悟が。

偉大な結果は、そこから生まれるのである。

ただし、この覚悟というのものは、一朝一夕で出来るものでもないし、完成形があるものでもない。一生をかけて育て続けていくものだと筆者は考えている。

いずれにせよ、もし覚悟があまりに曖昧で、フワフワした動機のまま起業するならば、直ちに失敗して、その先にも何もない。というのが関の山だから、自分と向き合う所からまず始めた方が良いだろう。

■十分条件は、いくらでもある

現時点の筆者の意見では、必要条件は上述の二つだけで、あとはすべて十分条件に含まれると考えている。

武器は、もちろんあればあるだけ強くなるし、成功確率は高まる。一方で言えるのは、武器は有象無象の一つに過ぎず、わざわざ時間をかけて全て集めるものでもない。冒険に出た後でも、いくらでも手に入るからだ。

参考までにいくつかの項目ごとに記述しておく。

⑴業界知識
とはいえ、これは重要である。筆者も、業界知識の欠如が主因で一度事業に失敗した。これを得る一番の手段は、その業界で働くことである。もし日本の人材業界で起業するのであれば、一度人材業界に入って働いてみる。失敗の確率を減らすということを考えれば、これは確実な方法かと思う。業界の商流や、その業界特有のポイントみたいなものがあるので、それらを掴んでおくことは新しいビジネスを起こす上で重要なインプットになる。その業界の最前線にいる人にヒアリングすることも効果的である。もちろん、まずはインターネットでリサーチすることもできる。ただ、実際に中に入ってみないと見えない業界知識は割とあるので注意が必要。

⑵人脈・コネクション
そもそもビジネスを一言で表現するならば、「ビジネスモデル×ヒト×カネ」という公式になる。
この三つの掛け算でビジネスは成り立つ。この式のポイントは足し算ではなく、乗算であるという所にある。ベンチャーの特徴は「ヒト」と「カネ」、つまり、リソースが圧倒的に少ないということ。三要素のうち二つが少ないというのは、想像以上に厳しい戦いを挑むことになる。そんな中、例えば、一度就職して仕事をしてきた中で出来た人脈やコネクションを使えば、ヒトの変数が増える可能性がある。協力してくれるならば、カネも増える(協力してくれるヒトがいれば節約にもなる)可能性がある。人脈・コネクションはいくら増やしておいても損はない。かなり大きな武器になる。

⑶経営知識
主に、ビジネススクールで学ぶような経営全般に関する知識のことである。知ってるだけでは全く意味はないが、勉強すればかなり見通しは明るくなる。逆に、本当に何も知らないと、コンパスも地図も持たずにジャングルの中に突っ込むようなもの。運が良ければどこかに出られるかもしれないが、「自分がどこにいるのかわからない」「なぜ失敗したのかわからない」というような状況に陥りかねない。本でも十分勉強はできる。

⑷信用(実績・肩書き)
ここでいう信用はいわゆる、ブランドのこと。どこどこで働いていた、とか、こんなプロジェクトを成功させた、とか。外部に対しての信用として使えるので、営業力になったり、契約のフックになったりする。ただし、会社を辞めて個人になった瞬間に消え去ることも往々にしてあるので、あくまで中身(実力)の勝負であり、わざわざ時間をかけて手に入れるものでもないかと思っている。

⑸スキル
リーダーシップ、営業力、会計、プログラミング、などなど様々あるスキルのこと。巷のセミナーによく人が集まっていることから、「スキルスキル」と求めている人が昨今多いのかもしれないが、これは全く重要ではないと思う。もちろん、保有しているに越したことはない。さらに人より圧倒的に飛び抜けているスキルがあれば、かなり武器にもなるしブランディングにも繋がる。一方で、起業の中で必要となるスキルはかなり流動的であり、多様である。一点集中で、せっかく時間をかけたのに陳腐化して使わないなんてことも起きる。それよりも、事業を進める中で必要となることが沢山出てくるので、必然的に必要なスキルは身についていく(つまり、学習能力そのものの方がよっぽど重要)。それに、創業メンバーで保有していないスキルは、外部から借りれば良い。起業するビジネスモデルを考慮する中で、キーとなりそうなスキルがあればそれだけ準備するのはアリかもしれない。また、WEBサービスの起業ならば経営陣がプログラミングができるとやはり強い。挑戦のコストが格段に抑えられるからだ。

■「急がば回れ」VS「思い立ったが吉日」

上述で、起業を始めるに当たってのいくつかの十分条件を見てきた。

「急がば回れ」という諺があるが、ずっと昔から使われ続けているということは、きっと世の中の真理を突いているということを意味するのであろう。準備できることはいくらでもあるので、特に学生ともすれば、わざわざ急ぐ必要は全くないと思う。若いうちに有名になってやろう、とか野望がある人は別だが。

筆者自身も、今は完全に「急がば回れ」の精神で人生を考えている。失敗を経験した今、自分の分をわきまえ、できることをやりつつ、できないことは静かに見つめ、日々準備をしている。自分が達成したい「覚悟」は少し遠いところにあるので、三十年ぐらいしてやっと一つ成功と胸を張って言えれば良いかなと思っている。

一方で、矛盾するようだが「思い立ったが吉日」で起業したいなら早く始めることも、成功に向けて、やはり真を突いていると思われる。つまりは、どちらを取っても一長一短。

例えば、大企業に入って、大変優秀で、数十年勤めた末に、かなりのポジションにつき、プロフェッショナルと言えるような人、そんな経験豊富な人物が起業したら上手くいくかといえば、これも全く保証はない。というか、多分失敗する気がする。

会社で偉くなって大きな経験ができたとしても、それはどこまでいっても会社の”一部分”でしかない。会社というのは、そもそも分業制で成り立っているからである。経営は、その延長線上にはない。経営は、全く別次元のものだと思った方が良い。

だから、準備のために十年も二十年も会社に勤めるというのは、今の時代ではナンセンスだと思う。時間がもったいない。文明の発達のおかげで、挑戦するコストは段々と落ちてきているし、学びが得られる機会も増えてきている。

結論として、最初に挙げた「お金」と「覚悟」の問題。これさえクリアーになれば、早く始めた者の方が最終的には上だろう、と今は考えている。やりながら、考えて勉強していく方が成長スピードが上がって成功につながりやすい。

■スタートアップは、アートそのもの

最後に、もう一度スタートアップと芸術の話に戻ろうと思う。

筆者は、抜刀術というのをやっているのだが、このプロセスが非常に起業と酷似している。

抜刀術というのは、”藁(わら)”を人に見立てて、日本刀の真剣で試し切りを行う、武術であり芸術である。
戦乱のなくなった現代では、抜刀に目的などない。この一点は、起業と芸術の大きな違いである。
ただ、抜刀でやることは、心を落ち着かせ、己と向き合い、藁をきる。日々自分を磨き、精進する芸ごとである。

藁に一刀を入れる。ただそれだけのことにものすごく奥深さがあるのが抜刀の面白さである。
初心者は、初め一見簡単そうに見える。実際にやってみても、ある程度力のある人は誰でもすぐ切ることはできる。日本刀は、人が切れるにように極限まで機能美を追求されているからである。
しかし、始めてすぐに違いに気づく。ただの一振り、ただの一刀。達人と比べると全く異次元であることがわかる。

藁が切れた、その切れ筋の美しさ、日本刀の刃筋と藁がビタッと合った時にだけ出る、切る瞬間の音、見ている者に与える気迫、時が止まったような空気を作り出す緊張感。そんな『完璧な』一刀を繰り出すのには、あらゆる鍛錬が必要である。
刃の角度、振り下ろすスピード、目線、顎の位置、足の置き具合、重心、姿勢、立ち振る舞い、精神状態、自信…挙げて言ったらキリがない。それら全てが完璧に噛み合った時に、その見事な一刀を入れることができる。

たとえ「刃を立ててこの角度で振り下ろすんだよ」という知識を事前に学習したとしても、実際にそれができるかどうかは全く別の話。

何度も何度も、実際に試して、失敗を経験して、その失敗を静かに分析して、また試して…。
結果にはあらゆる要素が影響するから、それら全てが完璧に噛み合うところを見つけていく。もちろん、そこには、知識として言葉では言い表せられない暗黙知もたくさん含まれる。

そして、修練した先にだけ、完璧な一刀が少しずつ出来上がっていく。

人生も起業も此れと一緒。これこそが「起業が芸術と似てる」と言える所以である。

実現したい覚悟を決めて(=自分が美しいと思う価値観を磨き)
勉強と実践を繰り返して(=何度も修練に励み)
事業の成功を狙っていく(=完璧な芸術品を作り上げる)

成功した先には、きっと見たことのない景色が待っているのだと思う。
いまは奇跡的な激変の時代。もっともっと未来に挑戦する若者が雨後のたけのこのように出てくることを期待しています。

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